東日本と西日本で形も遊び方も異なる線香花火、その境界線は○○にあった!?

2022年記事

福岡県

この記事は2022年花火特集のものです。最新トピックスはこちら

昨夏よりコロナ禍で再び脚光を浴びた手持ち花火の人気は、2022年も続くと見られている。そんな手持ち花火の代表格といえば、やはり線香花火だろう。”こよりの先に火薬を包んだ紙製のもの”を思い浮かべる人も多いと思うが、九州出身の筆者は幼少時代に”棒状の線香花火”でも遊んでいた記憶がある。そのことを関東出身の友人に話すと「(そんな線香花火は)見たことがない」と言われてしまった。「そんなはずはない」と調べてみると、どうやら西日本と東日本で線香花火の認識に違いがあるらしい。

そこで、現在国内で唯一”紙製”と”棒状”の2種の線香花火を製造している「筒井時正玩具花火製造所」(福岡県みやま市)に取材を依頼。3代目・筒井良太さんの妻で、幼少期から花火が大好きだったという筒井今日子さんに、線香花火についていろいろとお話を伺った。

東西で線香花火の形が違うのはなぜ?
東西で線香花火の形が違うのはなぜ?


線香ではないのになぜ?「線香花火」の名前の由来

そもそも花火が誕生したのは江戸時代。当時、幕府によって鉄砲の流通が厳しく制限されたことをきっかけに、火薬を扱う技術を持った砲術師たちが花火を作り始めたとされている。残念ながら、線香花火が誰によって、いつ頃から作られ始めたのかという記録は残されていない。しかし、1748年に描かれた浮世絵「絵本十寸鏡(えほんますかがみ)」(画・西川祐信)に、”女性たちが線香花火を楽しむ様子”が登場している。

「線香花火は、米どころでワラがたくさんあった関西地方で生まれました。当初はワラの先端に火薬を付けた『スボ手牡丹』という"棒状"のもので、線香を立てる香炉に挿して観賞していたことが”線香花火”の名前の由来です。それが関東に伝わった際、米作りに比べて紙すき業が盛んだったことから、ワラの代わりに紙で作られるようになりました。だから線香花火の形は、西日本と東日本で2種類あるんですよ。ちなみに、紙で作る線香花火は『長手牡丹』といいます」と筒井さん。

【写真】西の線香花火「スボ手牡丹」。線香花火の原型とされ、300年以上形が変わっていない
【写真】西の線香花火「スボ手牡丹」。線香花火の原型とされ、300年以上形が変わっていない

東の線香花火「長手牡丹」。関東地方を中心に親しまれ、現在では線香花火のスタンダードに
東の線香花火「長手牡丹」。関東地方を中心に親しまれ、現在では線香花火のスタンダードに

ちなみに、現在国内では筒井時正玩具花火製造所を含めて3社しか線香花火を製造しておらず、近年流通している線香花火の99.9%は輸入物とのこと。さらに、西の線香花火「スボ手牡丹」にいたっては筒井時正玩具花火製造所でしか作られていないため、西日本の若者の間でも”線香花火=紙製のもの”という認識に変化してきているそうだ。

東西の線香花火は遊び方が違う!

素材も形状も異なる2つの線香花火は、遊び方も違う。紙製の「長手牡丹」は下に向けて持ち、風が吹いていない環境がベスト。それに対し、「スボ手牡丹」は斜め45度で火薬側を上向きに持ち、ある程度風が吹いている環境で遊ぶのが望ましい。

その理由は、”線香花火の見え方が温度上昇によって変化していくこと”にある。厚みが均一な紙で作られた「長手牡丹」と違い、太さが均一ではないワラを使う「スボ手牡丹」は燃焼しづらく、温度が上がりづらい。そのため、意図的に風を当てて温度上昇をさせる必要があるのだ。

このように東西で違いはあるものの、線香花火ならではの魅力や観賞ポイントは変わらないと筒井さんは言う。

「国産の線香花火は、4つの表情を見られるのが特長です。火を付けると最初に蕾(つぼみ)のような火の玉ができ、次に牡丹(ぼたん)の花が咲くように勢いよく火花が飛び出す。やがて松の葉の形のように弾けて、最後は菊の花が散るように静かな火を線状に放つ。この4変化は『スボ手牡丹』『長手牡丹』どちらでも楽しめるんですよ」

筒井時正玩具花火製造所では線香花火の4変化を、それぞれ「蕾」「牡丹」「松葉」「散り菊」と呼んでいる
筒井時正玩具花火製造所では線香花火の4変化を、それぞれ「蕾」「牡丹」「松葉」「散り菊」と呼んでいる


線香花火の東と西、その境界線はどこに?

西日本で誕生し、東のほうへ伝わるにつれて姿かたちを変えた線香花火。では、その”東西の境界線”はどこにあるのだろうか。平成28年に岐阜県関ケ原町によって制作された「東西文化の調査報告書(抜粋)」(web上にて閲覧可)には、"関ケ原付近が境界線と考えられる"と記述があるのだが、実際に出張販売やワークショップなどで全国をまわっている筒井さんは、この境界線についてどう感じているのだろうか。

「線香花火とともにここ10年ほど全国を巡って、地域の人と話してきたうえで言えることは、大阪などの関西圏と四国は『線香花火といったらスボ手牡丹!』という人がほとんど。九州は全体的に『スボ手牡丹』『長手牡丹』のどちらにも馴染みがあるようですが、福岡県北九州市に関しては関西圏と同じく『スボ手牡丹』が強く根付いています。逆に東京では、どの世代でも『スボ手牡丹』を見たことがない人が多い。名古屋も『長手牡丹』が主流のようでしたね。”線香花火の東西の境界線”は考えたことがなかったので、今後しっかり調べてみたいです(笑)」

東西の線香花火の違いを体験してみよう

「Fireworks」として世界中で親しまれている花火。しかし、線香花火をはじめとする手持ち花火は日本独自の文化なのだそう。今回取材にご協力いただいた筒井時正玩具花火製造所では、そんな日本ならではの花火文化を絶やさないために、ワークショップを開いたり、研究者やデザイナーらと手を組み「玩具花火研究所」を立ち上げたりとさまざまな活動を行っている。

本記事で取り上げた西の線香花火「スボ手牡丹」、東の線香花火「長手牡丹」は、筒井時正玩具花火製造所の公式サイトでも販売されている。今年の夏は、線香花火の歴史に思いを馳せながら”東西の違い”を楽しむのもいいかもしれない。


詳細情報

筒井時正玩具花火製造所
■住所:福岡県みやま市高田町竹飯1950-1
■電話:0944-67-0764
■公式サイト:https://tsutsuitokimasa.jp/

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情報は2022年7月25日 15:15時点のものです。おでかけの際はご注意ください。

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